カズオ・イシグロさんに聞く

本日の朝日新聞カズオ・イシグロさんへのインタビュー記事が彼の写真付きで載りましたが、それで初めて彼の顔を知りました。

たそがれの愛・夢描く 英国人作家、カズオ・イシグロさん


日本生まれの英国人作家、カズオ・イシグロさんが初めての短編集『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』を出し、邦訳も出版された(土屋政雄訳、早川書房刊)。イタリア・ベネチアや英国の田園地帯、米ハリウッドなどを舞台に、人生のたそがれを迎えた人々の愛の終わりや、かなわなかった夢を描く。創作への思いを聞いた。


 ――初の短編集を出版されました。

 前作『わたしを離さないで』(05年)を書く前から持っていたアイデアです。当初は、同じ舞台、同じ語り部で三つの短編を書くつもりでしたが、実際に書き始めると、それぞれの物語が違う方向、異なる場所に進んでいき、結局、七つの物語になりました。うち五つを選びました。
 私の小説はたいてい2、3の違った物語から成り立っています。頭に浮かぶアイデアを実験的に短編として書いてみて、うまくいけば、それらを一つにつなげていく。つまり、小説を書くのに有効な手法として短い物語を書いていました。
 今回は、短編のために書きました。最初は、ずいぶん違うのだろうと思っていましたが、書いてみると長編を書くのと違いがないことに驚きました。とても貴重な経験だった。

 ――「音楽」と「夕暮れ」が共通のテーマになっています。

 音楽は、誰もが抱く、こういう人生を送りたいというような夢やあこがれを象徴しています。夕暮れは、昼から暗い夜に変わる転換点。夜にはなっていないが、そう長く続かない時。つまり時間の経過や年齢を想起させます。

 ――フランク・シナトラの音楽のような、ロマンチック・メランコリーの世界ですね。

 登場人物は、夢や信じていた可能性と、現実やあきらめのはざまで揺れています。若い頃は活力に満ち、楽観的です。しかし、年を重ねるうち、いつまで可能性を夢見ながら生きられるのだろうかという疑問がわき起こってくる。夢を実行に移すか、それともあきらめるのか、という決断の日をなんとか先送りしたい誘惑に駆られます。
 一方で、我々が生きる社会も変わりました。最近は、人生をやり直すのに遅すぎることは無い、という風潮が広がっています。現代社会は「今のままの自分であきらめてはダメ。人は変わることができる」というメッセージを出しています。
 その意味で、決断の日をどんどん先送りし、自分の夢をいつまでも育んでいられる環境なのです。でもそれは、現実の自分をあざむいていることでもあるわけです。

 ――英紙に「あと3、4本しか書かない」と語っています。いま54歳で、これまでは約5年に1冊のペースで書かれています。

 そう、現実を言っただけです。私は一定のペースで仕事をしています。私にとっての挑戦は、今までと違うものを書くこと。「あるテーマについて衝撃を受けたいなら、この本を読むべきだ」と言われるような小説を書きたいですね。

 ――ノーベル文学賞について、どうお考えですか。

(笑いながら)私には、それを議論する理由が分からないのです。それほど重要な賞でしょうか。科学分野では権威はありますが、文学の世界では奇妙な賞だと思います。たしかに偉大な作家が受賞しているが、受賞後はあまり素晴らしい作品が書けていません。ノーベル賞の影響なのか、それともキャリアの終わりを迎えた人に賞が贈られているのか、私にはよく分かりません。(ロンドン=土佐茂生)


カズオ・イシグロ 54年、長崎市生まれ。5歳で渡英。83年に英国籍を取得。82年のデビュー作『遠い山なみの光』(『女たちの遠い夏』から改題)で英王立文学協会賞を受賞。89年の『日の名残り』で英国文学最高峰のブッカー賞を受賞した。写真はデービッド・ピアソン氏撮影。

http://book.asahi.com/clip/TKY200907200066.html

ノーベル文学賞について、それほど重要な賞だろうか、文学の世界では奇妙な賞だと思う、キャリアの終わりを迎えた人に贈られているのでは、と述べているのが印象的です。そうは言っても、やはり欲しいのでしょうね。
イシグロの新作については、mixi の THE MUSIC PLANT さんのブログで知っていました。THE MUSIC PLANT さんの評価では「これはコメディ」だそうで、邦訳ではこのニュアンスが出ていなかった、とのこと。
http://musicplant.exblog.jp/11517585/
http://musicplant.exblog.jp/11562012/
英紙ガーディアンの記事はこちら。
http://www.guardian.co.uk/books/2009/apr/27/kazuo-ishiguro-interview-books