日本国憲法研究

雑誌「ジュリスト」に連載中の「日本国憲法研究」。座談会では長谷部先生が司会を務めておみえです。
本日、その第5回「道州制」(座談会は 2009.8.3 に収録)を、遅まきながらではありますが読んでみました。道州制は当時の自民党政権下では担当大臣も置かれて熱心に議論されましたが、政権交代を経て、今ではかなりトーンが下がっているように見えます。大橋さんが言われるように、市町村は合併してリストラで大変なのに「都道府県のほうは安泰」ということで本当に良いのでしょうか。
以下、備忘メモ的に。

金井利之
 最近の議論は、憲法調査会、あるいは国民投票法などができているにもかかわらず、およそ憲法改正を要するような提案をしていないというスタイルです。これは、私としては非常に興味深い。
 実は都道府県制度は明治国家がつくった最高の傑作品だとすると、都道府県制度を改革することは、かなり大きなマグニチュードを持つものなのかもしれない。実は都道府県制度こそが「国のかたち」の中核かもしれない。都道府県制度は、戦後改革においてさえ生き残った「国のかたち」の本当の骨格なのかもしれないという気もしなくもない。
 道州を地方公共団体にするか、しないか。あるいは地方公共団体でありうるのか。議院内閣制を導入したい場合には、長の直接公選の規定が障害になります。憲法上の地方公共団体ではないけれども、立法政策上、道州をつくるとするならば、議院内閣制的なもの、あるいはそれ以外の制度もできることにもなると思う。昭和38年判決の射程は非常に興味がある。

大橋洋一
 2000年の改革のときは、機関委任事務を廃止したということであって、機関委任事務で国の出先機関の役割をずっと果たしてきたのは都道府県だったので、(金井が)おっしゃるように、その限りでは都道府県改革が1つのメインテーマだったと言えると思う。
 それで都道府県改革はあの時点で終わったのだという評価なのか。そうではなくて、都道府県は国の出先の窓口としての仕事すらも失ってしまって、しかもそのあと市町村合併を通じて基礎自治体である市町村が大きくなってきて、ますます存在理由を問われる状況にあるとも整理できる。

長谷部恭男
 憲法の教科書で地方自治のところを見ると、地方自治は民主主義の学校である、というように書いてあるが、あれはもともとはJ.ブライスの言っていることで、ブライスが言っている地方自治というのは非常に小さな規模の地方自治体のことです。みんなで道路の改修をしたり、そういう小規模な公共工事にみんなで参加することで、公共的な意識が芽生えてくるという話で、その話の規模から言うと、現在の日本は、たぶん基礎自治体でさえそんなレベルの学校にはなりえないような状況ですから、そういう牧歌的な議論とは違った話をしないと、道州制はなぜ必要なのかという話にはならない。
 
金井利之
 道州制論を主張している勢力というのは、実は近畿圏と九州圏に多いという現象がある。これはよくよく考えてみると面白い現象です。実は、明治維新をもう1回やりたいのかなと思います。

金井利之
 行政学の主流の議論はイタリア自治体型かもしれません。議会の選挙と首長を同一リストでやってしまえば、長を公選しつつ議会も公選して、当選した長を出したリストに多数議席を自動的に配分すれば、事実上、議会多数派と首長の党派が変わらないという議院内閣制的仕組みが可能ではないかという議論のほうが多いのではないか。私はその議論には与していないが。 


以下、これまでの内容です。

ジュリスト連載 日本国憲法研究


第1回 ジュリスト №1363(2008.9.15)
◇「日本国憲法研究」の開始にあたって……長谷部恭男

 憲法に関わる論議は運動論と関連してイメージされることが多く、冷静な法律論として受け取られにくいところがある。しかし、党派的立場と離れて独立に、学問として自律的に結論を導きうる構造と機能を備えているからこそ、法律学は社会生活にとって有用のはずであって、その点では解釈論も含めて憲法学も変わりはない。個別の運動論からしても、憲法学は、ときには不都合な結論を導きうる可能性も含めて、自律しているからこそ有用である。
 この研究会では、憲法との関係が論議される問題につき、具体的に憲法のどの条項のいかなる要請との衝突が問題となるのか(ならないのか)、結論を導く上で必要な考慮要素は何か、審査基準として何が考えられるか等、憲法学固有の問題について、実務的な観点にも留意しつつ、討議することとなる。
 論点は論じ尽くされた観のあるものから未だ具体像が判然としないものまで多岐にわたり、出席者の見解も区々に分かれている。憲法論の幅を汲み取っていただければ幸いである。

裁判員制度
◇〔基調報告〕裁判員制度憲法的思考……笹田栄司
◇〔座談会〕……笹田栄司(ゲスト)/ダニエル・H・フット(ゲスト)/長谷部恭男(司会)/大沢秀介/川岸令和/宍戸常寿

第2回 通信・放送法制 ジュリスト №1373(2009.3.1)
◇[基調報告]通信放送法制と表現の自由……鈴木秀美
◇[座談会]……鈴木秀美(ゲスト)/山本博史(ゲスト)/長谷部恭男(司会)/大沢秀介/川岸令和/宍戸常寿

第3回 外国人の選挙権・公務就任権 ジュリスト №1375(2009.4.1)
◇〔基調報告〕外国人の選挙権・被選挙権と公務就任権……青柳幸一
◇〔座談会〕……青柳幸一(ゲスト)/柳井健一(ゲスト)/長谷部恭(司会)/大沢秀介/川岸令和/宍戸常寿

第4回 ジュリスト №1379(2009.6.1)
◇[基調報告]憲法学からみた生殖補助医療の問題……井上典之
◇[座談会]……井上典之(ゲスト)/窪田充見(ゲスト)/長谷部恭男(司会)/大沢秀介/川岸令和/宍戸常寿

第5回 道州制 ジュリスト №1387(2009.10.15)
◇[基調報告]道州制地方自治……大橋洋一
◇[座談会]……大橋洋一(ゲスト)/金井利之(ゲスト)/長谷部恭男(司会)/大沢秀介/川岸令和/宍戸常寿

第6回 ジュリスト №1390(2009.12.1)
◇[基調報告]浮き彫りになった憲法上の論点――投票から新政権発足までの間……高見勝利
◇[座談会]……高見勝利(ゲスト)/成田憲彦(ゲスト)/長谷部恭男(司会)/大沢秀介/川岸令和/宍戸常寿

第7回 思想・良心の自由 ジュリスト №1395(2010.3.1)
◇[基調報告]思想・良心の自由を今,考える……西原博史
◇[座談会]……西原博史(ゲスト)/小島慎司(ゲスト)/長谷部恭男(司会)/大沢秀介/川岸令和/宍戸常寿

第8回 政教分離 ジュリスト №1399(2010.4.15)
◇[基調報告]政教分離最高裁判所判例の展開……安西文雄
◇[座談会]……安西文雄(ゲスト)/岡田信弘(ゲスト)/長谷部恭男(司会)/大沢秀介/川岸令和/宍戸常寿
◇ 砂川政教分離訴訟最高裁大法廷判決の解説と全文……清野正彦
◇ 資料 最高裁平成22年1月20日大法廷判決全文