　法思想史入門 - おやっさん的日常

作者: 長谷部恭男
出版社/メーカー: 河出書房新社
発売日: 2011/08/02
メディア: 単行本（ソフトカバー）
購入: 3人クリック: 59回
この商品を含むブログ (24件) を見る

長谷部さんの新著『Interactive憲法』の続編が今週の金曜日に刊行されるというニュースは10日前の朝日新聞、有斐閣の広告欄で知っていましたが、こちらの最近の書き下ろしもなかなかおもしろそうです。
本業が憲法学である長谷部教授。法哲学、法思想史は専門外でありながら「自分が読みたい内容の本を専門家に書いてもらえないので自分で書いた」と豪語されている本書。
いつもながら中身の濃い内容です。

　序　章　法はあなたにとってどういう存在か
第1部　国家はどのように考えられてきたか
　第 1章　何のための国家か
　第 2章　トマス・ホッブズ―平和と自己防衛を目指す国家
　第 3章　ジョン・ロック―個人の権利を保障する国家
　第 4章　ジャン・ジャック・ルソー―自由を保全する国家
　第 5章　イマヌエル・カント―永遠に完成しない国家
　第 6章　人々がともに生きるための立憲主義
第2部　国家と法の結びつきは人々の判断にどう影響するか
　第 7章　ケルゼンとハート―法の規範性と強制力
　第 8章　ハートとドゥオーキン―法と道徳の関係
　第 9章　法が法として機能する条件
　第10章　法と国家―どちらが先か
第3部　民主的に立法することがなぜよいのか
　第11章　なぜ多数決か
　第12章　民主政の過去から学ぶ
　終　章　法に従う義務はあるか

それにしても朝田さんという美人（belleというよりjolie）の担当編集者の話（P.19）とか、incommensurability をどう訳すかというのも調整問題（P.44）だとか、いつもながら楽しい箇所が満載ですね。「立憲主義」というか「リベラル・デモクラシー」というかも調整問題、ということでしょう。
Constitutionalism
http://plato.stanford.edu/entries/constitutionalism/
文献解題も参考になりました。ホッブズとロックの生涯と思想の解説本の決定版の紹介（P.58、P.71）だとか、ドゥオーキンの「すべては解釈だ」というテーゼがトロペールにも共有されている（P.145）という指摘などです。
あと、いくら話題になっているとはいえ、わざわざ禁煙条例を取り上げ、条例は法の一種だとして議論されている箇所（P.115）にも、私は好感を持ちました。氏はおそらく強行な嫌煙派なのでしょうが、このように条例が法の一種だと明確に憲法学者が書いているのですから少しは地方議会も襟を正して立法機関の自覚をもってほしいものです。
次のルサンチマンについて述べる箇所（P.197）は本書で最も読ませる部分なので引用させていただきました。関連して苅部直さんの「福澤における怨望論」を再読したくなりましたね。

　民主的な社会では、とかく「エリート」や「特権集団」を攻撃する言動が流行りがちです。そうした攻撃に理由がないわけではないのですが、市民が必ずしも社会全体の長期的な利益を見通す余裕も能力もないという状況で、こうした「エリート」や「特権集団」を叩き潰して、地位も能力も均等な人間だけにしてよいのか、という視点も持ち合わせる必要があるでしょう。トクヴィルの描く穏やかな後見的権力の下で安楽に過ごすことができれば、それでよいではないか、という方もおいででしょうが、確かな財源のあてもないのに、とにかく生活の面倒を見ますという政治家を選挙で選んでも、後でそのツケは自分たちやその子孫に回ってくることになります。

普通の教科書ではどうしてもギリシャ・ローマの法思想から始まってしまうので、ここに興味を持てないと後が続かないのが悩ましいところ。入門書ならこれくらいの内容が私的には相応しい分量ですね。
http://mixi.jp/view_item.pl?id=1552717&reviewer_id=9238594
以下の一般向けの長谷部本、たまに読み返すと頭がスッキリするようで読書の喜びというものが手軽に味わえるので好きですね。