ダグラス・サーク Douglas Sirk という名前はどこかで聞いたことがあるような気もしますが、本日、彼の監督作品を初めて鑑賞することができました。
1947年のハリウッド時代前期のB級映画「誘拐魔 Lured 」という作品ですが、ユーモラスなボリス・カーロフが出てきたり音楽会(シューベルト未完成)やナイトクラブのシーン("All for Love"を歌っていた女優は Ethelreda Leopold という方らしいのですがこれがなかなか上手かった。2曲目の途中でカットされてしまい残念)など内容盛り沢山で大変おもしろかったです。若きルシル・ボールと精悍なジョージ・サンダース、よかったですね。
http://www.imdb.com/title/tt0039589/
http://www.imdb.com/name/nm0802862/bio
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サークが最も得意としたのは、通俗的メロドラマの世界である。それも、アメリカ時代後期にユニヴァーサル・インターナショナルで連作したようなオールドミスの恋愛ドラマに、サークの情熱は主に注がれることとなった。老境に近づきつつある男女のドラマ。それはこれから何かを発見していく若者たちの姿とは違い、自分が身につけたものを次々と捨てていく道程である。だが、それをサークは寂しさの中には描かない。ハリウッドで最もスタイリストであると言われるくらいきらびやかな照明と衣装とセットの中に老いと衰亡のドラマを置き、鏡や窓ガラスの複雑な反射で物語を飾り立ててみせる。
それ故に、サークの映画は物語そのものよりも語り口やスタイルこそが重要なのだと誤解されることがしばしばあるが、彼が真剣に取り組んでいたものが「ハッピーエンド」であることを思い起こせば、彼が決して物語を二次的なものにして演出やスタイルにこだわっていただけの監督ではなかったことがわかるだろう。
サークは、ハッピーエンドについて「絶対的な終わり。そのあとには何もない」と語っている。そうした物語の絶対零度に向けてそこに至るまでの「何かがある時間」をいかに充実させ、あたかも素晴らしい人生と見紛うような物語をどのように収束させていくか、それがサーク映画の本質だと思う。すべてが過ぎ去ったあとには何も残らないからこそ、そこに至るまでの物語が美しく貴重なものに感じられるという、人生の意味にも似た深い物語、それこそがサーク映画の真の美しさである。
http://www007.upp.so-net.ne.jp/mizutami/sirk.htm
- 作者: 蓮實重彦,山田宏一
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