ポートレイト・イン・ジャズ

ポートレイト・イン・ジャズ (新潮文庫)

ポートレイト・イン・ジャズ (新潮文庫)

ここ数日、通勤車中でこの『ポートレイト・イン・ジャズ』を眺めております。
初めて手にしたのは一昨日、24日の水曜日のこと。
この時は、イアホンでニック・ロウの「At My Age」を流しながら、お二人それぞれの「まえがき」、「あとがき」と、本書に取り上げられたミュージシャンのリストを確認しつつパラパラと最後まで眺めたのですが(初めて聞く名前が、本書の表紙になっているビックス・バイダーベックやジャック・ティーガーデン、とぞろぞろ)、いくら聴き慣れているとはいえヴォーカルが頭の中で流れていて本書を黙読するのに邪魔にならないのだから、やはりこの盤はジャズなのだ、との感を深くしたところです。
At My Age

At My Age

ところが、昨日と本日はBBCラジオのジャズプログラムを1週遅れで聴きながら、イアホンから流れてくる曲毎に今、演奏しているミュージシャンは本書に載っているだろうか、とその該当箇所を探して確認しながら眺めてみたという次第。
予めBBCの番組HPから曲名や演奏者のデータを入手して携帯にシンクさせていたので通勤車中でも非常に便利。何といってもBBCのHPは充実していますので重宝します。

例えば・・・
曲名その1。サラ・ヴォーンの September Song(1954)。

演奏者の一人、クリフォード・ブラウンについて、本書(P.215)には彼の生年と没年が記されていて彼が25歳の若さで亡くなったことが分かります。知らなかった私には、これだけでもサラの曲の印象がそれだけ強く、かつ深くなる、というもの。
http://www.bbc.co.uk/programmes/b01mdgj0
曲名その2。ナット・キング・コールの Honeysuckle Rose(1947)。

ナット・キング・コールといえばヴォーカリストだとばかり思っていたら、これは何とピアノトリオの曲。でも本書(P.137)ではしっかり、以下のように記されています。

 後年、ポピュラー歌手として、その甘くハスキーなヴォーカルに人気が集まるが、この時期の彼はジャズ歌手として優れるとともに、アール・ハインズの影響を受け、歯切れよいタッチと軽快なスイング感覚を誇る第一級のピアニストであった。

曲名その3。オスカー・ピーターソントリオの2曲、Sweet Georgia Brown(1958)と Place St. Henri(1964)。

ラジオのピアノトリオ特集でオスカー・ピーターソントリオのものが2曲流れ、それが本書(P.249)にあるとおりギター・トリオとドラム・トリオの曲だったのですが、これを鑑賞するに当たって村上さんの以下の文章は非常に参考になりました。

 僕はJATP時代のギター入りピーターソン・トリオの演奏をわりに好んで聴く。この時代の彼のサウンドには、後期の演奏に比べて厚みがいくぶん欠けていることは否めないが、それでも「ただただスイングする」という一点にかけた彼の若き日のまっすぐな熱情には、人の心を素直に打つものがある。変な言い方だけど、なんかもう損得抜きでやっているみたいな雰囲気が漂っている。ユニットのリズムののりもドラム・トリオ時代とはちょっと違い、腰のあたりでふらふらっと流しているという感じがあり、そういう独特の軽妙さは、エド・シグペンが加入したあとのドラム入りトリオからは失われたものだ、もちろん得たものの方が多いことは事実として認めるにしても。

http://www.bbc.co.uk/programmes/b01n9zg7
ざっとこんな感じですが、こんなに熱心に読んだことは、その昔、高校3年生当時に猪俣勝人さんの『世界映画俳優全史 女優篇』以来かも(これも女優毎に猪俣さんの解説ならぬエッセイが記されているものでした)。
本当に夢中になって、眼も耳も本書に没入してしまったので危うくバスと電車の降車駅を乗り越すところでした。

以上、本書の内容にはほぼ満足ですが、欲を言えば、村上さんの「あとがき」にあるとおり「キース・ジャレットジョン・コルトレーンも入っていないけれど、それがつまりこの本の素晴らしくかっこいいところ」かもしれませんが、私としてはコールマン・ホーキンズトミー・フラナガンのポートレイトを加えて欲しかったです。
再増補をお願いしますね、和田さん!

トゥデイ・アンド・ナウ

トゥデイ・アンド・ナウ

Love Song from "Apache"
Johnny Mercer / David Raksin
http://www.allmusic.com/album/today-and-now-mw0000076845
On 18 October 2009 Michael Berkeley's guest was Ian Rankin
http://www.classicarts.co.uk/passions-archive.asp
http://www.bbc.co.uk/programmes/b018mp1q
新・フラナガンを聴け!
http://blog.livedoor.jp/akkihand/archives/52147886.html
本書『ポートレイト・イン・ジャズ』、実はこれ、今回は図書館で貸出予約してやっと眺めることができた本なのですが、これだけ気に入っちゃった以上、買うといつものように読まなくなるかもしれないと思いつつ、本日 Amazon に注文することといたしました。
http://mixi.jp/view_item.pl?id=28959&reviewer_id=9238594


(追記)
ウィキペディアで知ったのですが、それによれば、村上さんの短編「偶然の旅人」(「新潮」2005.3)にトミー・フラナガンのことが出ているようです。
確認してみましたが、ざっと以下のとおりで、なかなかに味わい深い物語でした。

 1993年から1995年にかけて、僕はマサチューセッツ州ケンブリッジに住んでいた。(中略)ケンブリッジのチャールズ・スクエアには「レガッタ・バー」というジャズ・クラブがあり、ここで数多くのライブ演奏を聴いた。適度な大きさの、リラックスしたジャズ・クラブだ。名のあるミュージシャンがよく出演するし、料金もそんなに高くない。
 あるとき、ピアニストのトミー・フラナガンの率いるトリオがそこに出演した。トミー・フラナガン氏は個人的にもっとも愛好してきたジャズ・ピアニストの一人である。多くの場合サイドマンとして、温かく深みのある、心憎いばかりに安定した演奏を聴かせてくれる。シングル・トーンがこの上なく美しい。ステージのすぐ近くのテーブルに陣取って、カリフォルニア・メルローのグラスを傾けながら、彼のステージを楽しんだ。しかし個人的な感想を正直に述べさせていただけるなら、その夜の彼の演奏はそれほどホットなものではなかった。体調がすぐれなかったのかもしれない。
(中略)
 トミー・フラナガンの演奏をライブで聴く機会は、この先二度とないかもしれないのだ(実際になかった)。僕はそのときふとこう考えた。「もし今、トミー・フラナガンに二曲リクエストする権利が自分に与えられたとしたら、どんな曲を選ぶだろう?」と。しばらく思い巡らせた末に、選ばれたのは『バルバドス』と『スター・クロスト・ラヴァーズ』の二曲だった。
 前者はチャーリー・パーカーの曲(J.J.ジョンソンのバンドのピアニストとして『Dial J.J.5』(1957年録音)というアルバムに)、後者はデューク・エリントンの曲(ペパー・アダムズ=ズート・シムズ双頭クインテットの一員として『Encounter!』(1968年録音)というアルバムに収められている)。(中略)要するに、僕がここであなたに伝えたいのは、それは相当「渋い」選曲だったということである。


(後記)

1998年に出たCD第一弾。
村上さんによるライナーノート「煙が目にしみる」はモンクのソロ・アルバム(フランス・ヴォーグ)に纏わるお話。Amazonのレビューは以下のとおり。

1997年暮に『ポートレイト・イン・ジャズ』という本が新潮社から出版された(2001年には続編も出た)。ともにジャズ好きとして知られているイラストレーターの和田誠と作家の村上春樹の共著。まえがきを和田、あとがきを村上が担当したその本は、ジャズメンを描いたポートレイトとエッセイの2段攻撃でジャズの魅力に迫った内容だったが、その本の出版に絡めて両者のセレクションによるCDが2社から発売された。これはその1枚で、本に登場する26人のミュージシャンの中から半分の13人の歌と演奏をおさめた作品。収録されているのは、チャーリー・パーカー、ハーブ・ゲラー、アート・ブレイキースタン・ゲッツビル・エヴァンスデューク・エリントンエラ・フィッツジェラルドエリック・ドルフィーカウント・ベイシーナット・キング・コールディジー・ガレスピーセロニアス・モンクレスター・ヤング。音源はヴァーヴが中心。イラストと文章、そして実際の音がそろっているので、ジャズを身近に感じられる点がなんとも魅力だ。(市川正二)

こちらのCD解説書には、残念ながら曲情報(演奏者や演奏録音年月など)が付いておりません。
村上さんのライナー「雨の夜のビリー・ホリデイ」、副題は「ジャズとはどういう音楽なのか?」。
誰がなんといおうと、ジャズにはジャズ固有の匂いがあり、固有の響きがあり、固有の手触りがある、ビリー・ホリデイの歌を映画のためにダイアナ・ロスがそのままコピーしたものは、どうしてもジャズとは呼べない、しかしその決定的とも言える違いを言葉で表現するのは至難の業、といいながら、村上さんの「雨の夜のビリー・ホリデイ」、流石にとてもイイお話でした。


01 Chet Baker, t

10 Jack Teagerten

12 Bix

20 Gerry Mulligan, bs
http://www.bbc.co.uk/programmes/b014m5qf

40 Oscar Peterson, p

49 Hogey Carmichel, p

53 Art Pepper, ts