鶴見俊輔さん 1周忌

1周忌にあたる本日、以下の故石井信平さんのブログ(2007.8.3)で鶴見さんの貴重なエピソードに接することが出来ました。

皇后と鶴見俊輔さんの出会い


 宮内庁も警視庁も難色を示した皇后陛下の新宿へのお出かけだった。先月28日のことである。その日、民俗学者鶴見和子さんの一周忌を記念する会が、新宿の中村屋で開かれた。

 著書のすべてを読破するほど、美智子皇后は和子さんに「心酔」していた。その一周忌には、どうしても出たい。「わがままな」皇后を周囲はもてあました。

 宮内庁も頭を痛めた。会場にどんな人物が紛れ込んでいるか分からない。新宿という場所柄が悪い。中村屋というのは警備には最悪だ。せめて皇居に近い東京会館ならばよかった、等々。

 女官も連れず、最小単位のSPのみで、皇后の新宿侵入作戦は敢行された。彼女は和子さんを慕う人々の集いに、真に心安らぎ、スピーチの一つ一つに耳を傾け、出された食事をすべて食べた。

 親族を代表して和子さんの弟・鶴見俊輔さんが皇后のすぐ目の前に坐っていた。1941年、彼はアメリカのハーバード大学に留学していたが、真珠湾攻撃で始まった戦争に際して、米国当局は彼を「アナキスト」として検束した。戦後は一貫して反戦市民運動を貫いてきた人だ。

 その俊輔さんが皇后陛下に失礼な言動をしないか一部の人が心配した。

 二人は旧知の仲のように歓談した。周囲をギクリとさせたのは俊輔さんが皇后のことを「あなた」と呼びかけたことだった。

「あなたのお父さんとお母さんが、父の鶴見祐輔を訪ねて、軽井沢や熱海の家に来られた日のことをよく覚えていますよ」。亡き両親について初めて聞く話に皇后は思わず身を乗り出した。

 天皇のほかに、皇后の自分を「あなた」と呼びかけて来た人は空前のことだったに違いない。しかし、皇后はいささかも動じなかった。85歳の俊輔さんが発した「あなた」には、all human nature すべての人を平等と見る思想に裏打ちされた親愛の情がこめられていたからである。

http://blog.goo.ne.jp/shinpeishii/e/60f7da8eeb8d232fb49aa2b3d305a7d6

鶴見和子さん一周忌の集い(2007.7.28)
http://www.jca.apc.org/~yyoffice/goannnai179TsurumiKazukosan1shuuki.htm
PR誌「機」 2007年9月号
http://fujiwara-shoten.co.jp/main/ki/archives/2007/09/

“異なるものが異なるままに”ともに生きる――
http://fujiwara-shoten.co.jp/main/authors/archives/2000/01/post_8.php