ニギャアコメ

何が嫌いといって女にモテモテの男が大嫌い。世の中には実際いるんですね、そういう輩が。
今日の毎日新聞に載っている伊集院静というモテ男はその最たるもの。今朝、読んで気分が悪くなりました。どうしても好きにはなれません。好きになる女の方が悪いとでも言わんばかりの澄まし顔。その昔に捨てた娘から何故こんなに慕われるのでしょう。繭子さん、教えてくださいな。

出版されてから随分たつ本ですが今日のお昼に初めて読みました。そのおもしろかったこと。以下、孫引きする箇所などその最たるもの。藤井氏いわく「昭和62年の『文藝春秋』7月臨時増刊の『わが青春の女優たち』に寄せた『ニギャアコメ』と題する文章は、名古屋弁エッセイの傑作」とのことですが本当にそうです。浅井愼平さんがこんな文章を書かれる方とは今まで知りませんでしたが非常に好感を持ちました。

「ニギャアコメ」


「めっちゃめちゃだでかんわ」
 サポーターを穿きながら小柄なガード・プレーヤーのSがいった。ロッカールームのなかは男の子たちの肉体と匂いで一杯だった。
 Sの眼が輝いている。
「なにがだ?」
 フォワード・プレーヤーのTがきき返した。
「シルバーナ・マンガーノ」
「なんだ、そのシンバーなんとかいうの?」
「おみゃあ、知らんのか、ニギャアコメだがや」
 サポーターの上にパンツを穿きながらSがいった。
「オレも観てきた。おん、確かにええ、あれは女の存在感があるわ」
 中学生にしては長身のセンター・プレーヤーのYがいった。Sが突然、唄いはじめた。
 イタリア映画、シルバーナ・マンガーノ主演『にがい米』の主題歌だった。ぼくもYも笑った。
「オレ、この歌知っとる」Tがいった。
「知っとるだろう?S盤アワーでもやっとるがや、レコードも買ってきたし、ほんで覚えとるんだわ」
「なんだ、そういうことか」
「そんなこというけど、おみゃあ、ニギャアコメ観たか」
「観とったら、シルバーなんとかいうの、知っとるにきまっとるぎゃあ」
「そうだろ、なにしろ、ええんだわ、シルバーナ・マンガーノがよう、グラマーだし」
「なに?そのグラマーいうの?おみゃあ、いつでもむつかしいこというなあ、まさかよう、文法のことだにゃあだろ?」
「当り前だぎゃあ、そんなこというと笑えてまう」
 SとTは話をしながらユニフォームを着終った。ぼくとYはバスケット・シューズの紐を結んでいる。
「グラマーというアメリカの雑誌知っとるだろ?」
「オレ、知らん」
「おみゃあ、なんにも知れへんなあ」
 センター・プレーヤーのYがいった。
「まあ、ええ女いうことだわ、でっかくて」
「ふうーん、ええ女か」
「そうだ」
「イタリアなんかだと、あんな女がバスケットやっとるだろうか?」
 Sがぼくにいった。
 天窓から遅い午後の日ざしが束になってSに降っている。
 ぼくのなかでシルバーナのキラキラ輝く肢体が浮かんできた。暗いロッカールームが映画館のように思えた。みんな黙った。スクリーンから反射してくる光のなかの銀の粒子に包まれたシルバーナは女を知らない少年の鬱鬱とした性を激しくゆすった。
 ぼくがシルバーナ・マンガーノを知ったのは夏だったろうか。まるで記憶がない。しかし、人生の夏休み、蝉が鳴いていた季節だった。いまだにグラマーが好きだ。


『名古屋を読む』の関連でいうと名古屋城熱田神宮についての記述も興味深いものでした。人生五十年、その大半を愛知県内で過ごしてきた割に、知らないことばかり。
特に日本武尊が神器である草薙剣を熱田に置いて伊吹山の山の神を平定するため出かけたが、山の神の毒気にあてられて命を落とした、というところ。
我が家から西方に遥かに望むこの山にまつわるこんな神話があったことも不覚にして初めて知った次第です。
伊吹山もりびとの会のHPによると
滋賀県の北部に位置する伊吹山(標高1,377m)には日本海側と太平洋側の気候が入り交じる気象と石灰岩質に育まれた多くの動植物が生息しています。特に植物は約1,300種類も発見されている、まさに高山植物などの宝庫です」とのこと。自然観察会なども開催されているようですね。
http://www.mt-ibuki.jp/