大山教授

『国会学入門』(1997,2003)や『比較議会政治論』(2003)を物されている大山礼子教授については以前から注目し、その2著とも実際に手にしてパラパラ読ませていただいたところですが、教授が修士課程では御専門が「法哲学」であったということを最近知り、非常に興味を引かれる思いをしました。

比較議会政治論―ウェストミンスターモデルと欧州大陸型モデル

比較議会政治論―ウェストミンスターモデルと欧州大陸型モデル

現在(2008.5.7)の研究テーマとして「この数年は、比較議会制度の視点から国会改革の問題を捉えなおし、いわゆる「イギリス型議院内閣制」を日本に取り入れることの是非を論じてきた。今後は、より広く議会制民主主義の課題を考察し、政党論などにも取り組みたいと考えている」そうですが、ますますの御活躍を期待しております。
http://www.komazawa-u.ac.jp/~oyama/sub1.htm
http://www.komazawa-u.ac.jp/~kikaku/profiles/1401040.htm
ネット上で読める大山先生の文章は以下のとおり。一般的な論調とはちょっと違う、なかなか深い議論をされており参考になりました。
首相公選論を考える(2002.1.1)以下、一部抜粋。

 首相を直接選挙で選びさえすれば、国民の望む理想的人物が首相になると考えるのは、あまりに楽観的で安易な思考ではないだろうか。有権者の選択を実質化するためには、まず、国民の多数から首相として適任と認められるような人物が複数立候補し、候補者の間で政策論争が行われ、有権者に選択基準を示すことが前提条件である。だが、アメリカの大統領選挙や地方自治体の首長選挙を見てもわかるように、なんらかの政治勢力を背景に持たなければ有力候補者となることは難しく、有権者は不毛な選択を強いられる場合も少なくない。つまり、有権者は首相を選んでいるつもりで、実は「選ばされて」いることになりかねない。また、首相公選制は、公選の首相と国会との間に対立が生じた場合に政治危機を招きやすく、議会政治の破壊にいたる危険性を持つ。


 大統領制の欠陥については、今から 130 年余りも前に、バジョットがその著書「イギリス政体論」のなかで明快に論じている。
 第一に、立法府と行政府の分離を原則とする大統領制の下では、大統領が選挙民に公約した政策を実行するのは容易なことでない。大統領には法律案や予算案の提出権がないだけでなく、議会に出席して政策を説明し、議員を説得する機会も与えられていない。また、そもそも、大統領は議会の多数派とは無関係に選出されているので、多数派の支持はあてにできず、解散権の行使をちらつかせて議員に圧力をかけることも不可能である。立法府と行政府との対立が続けば政策決定は袋小路に迷い込んでしまうので、大統領はつねに議会に対して妥協を強いられる結果となる。
 第二に、権限が制約されているとはいえ、大統領は有権者からいわば白紙委任を受けた立場にある。議院内閣制においては、首相は日常的に議会で答弁しなければならず、議員および有権者に対して継続的な説明責任を負う。ところが、大統領は、いったん選挙が終われば自由にその権限を行使でき、公約から逸脱してもとがめる者はいない。マスメディアの批判には、議会の不信任決議のような効力はないのである。 
 そして、第三に、第二の論点とも関係するが、大統領を任期途中で辞任させるのはきわめて難しく、よほどのことがない限り任期満了を待つほかない。バジョットは、平時の指導者と戦時の指導者では適格性に違いがあるにもかかわらず、大統領制では突然国家的危機が発生した場合も指導者の交代はほとんど不可能だと指摘する。
 また、最近では、イェール大学のリンツ教授がラテンアメリカ諸国の研究を通じて、大統領制の危険性を詳細に検討している。「リンツの悪夢」とよばれる彼のシナリオは、大統領と議会との対立によって政治が停滞すると、国民の間から議会と政党への批判が高まり、それに乗じて大統領側が軍事クーデターを起こして権力を掌握、独裁政治にいたるというものである。もちろん、大統領制の破綻が制度の欠陥によるものなのか、あるいは貧困などその国特有の事情によるものなのかを見分けるのは難しいが、アメリカ型の大統領制を採用した国々の多くがリンツの悪夢を経験してきたという事実は否定できない。
 リンツアメリカを「唯一成功した大統領制の国」としているが、アメリカ政治にも問題がないわけではない。アメリカには200年を超える大統領制の伝統があり、アメリカの政党組織は大統領制の下で、大統領制に相応しいかたちに発展してきた。現在でも政党の党議拘束は議院内閣制の諸国とは比べものにならないほど弱いので、議会多数派を擁しない大統領であっても、議会との決定的な対立に陥らずにすんでいる。それでも、アメリカの大統領が大胆な政策を打ち出し、実行するのはきわめて困難だといわれる。過去の大統領が提案した財政改革や社会保障政策の抜本的改善計画などは、いずれも議会との妥協により、ほとんど骨抜きといってよい状態にされてしまった。


 落ち着いて考えてみると、議院内閣制の下で政権を担当するためには、総選挙で有権者の支持を集め、過半数議席を獲得しなければならないのである。そして、有権者の支持を得るには、国民にとって魅力があり、リーダーシップを発揮できる人物を党首に選出し、首相候補者として盛り立てていくことが早道であろう。現に、イギリスでは、総選挙が有権者による政権ないし首相の選択の場として機能していると考えられ、総選挙で過半数を獲得して首相の座についた与党党首は、国民の支持を背景に強力なリーダーシップを発揮する。また、これまでイギリスとは対照的な多党制の国と見られてきたフランスでも、近年は政党の左右二大ブロック化が進行し、総選挙の際に両陣営が首相候補を全面に立てて争うようになってきた。


 最近、国会議員や政党の提案、あるいはマスメディアの論調などを見ていると、与党事前審査の慣行を廃止して、「議院内閣制の本家イギリス」流の政府・与党の一体化をめざすべきだという意見が目立つ。しかし、私自身はイギリス型議院内閣制の模倣には反対であり、内閣のリーダーシップを重視しつつ、国会の討論では与党議員からの異論も聞くヨーロッパ大陸諸国型の議院内閣制をとるべきだと考えている。

http://www.citizen-net.org/policy/rohyama1/

二院制と参議院の在り方に関する件(2004.5.19)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/kenpou/keika_g/159_s03g.htm
自治基本条例の考え方(2007.5.15)
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/01/0111/forum/19_forum/01_odawara/kouen.html
衆院の権限強化が必要(2008.1.8)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/shinnen_interview/fe_sh_20080108.htm