古典再読

ミル『自由論』再読

ミル『自由論』再読

J.S. Mill's On Liberty in Focus (Philosophers in Focus)

J.S. Mill's On Liberty in Focus (Philosophers in Focus)

バーリン関連で検索したらこのような本があるのを見つけました。収録されているバーリンの文章は彼の『自由論』の4つのエッセイのうちの1編。
"John Stuart Mill and the Ends of Life", Robert Waley Cohen Memorial Lecture (London, 1959: Council of Christians and Jews)
http://berlin.wolf.ox.ac.uk/lists/bibliography/index.html
むしろ興味を引かれたのはアラン・ライアンの文章ですが、調べてみたら彼のものとしては最初期のものでした。
"Mill and the Art of Living", Listener, 1964
http://users.ox.ac.uk/~ajryan/
The Philosophy of John Stuart Mill

The Philosophy of John Stuart Mill

アラン・ライアンがBBCラジオでミルについて対談した放送がまだ聴けるようです。
In Our Times
Mill
Thu 18 May 2006
BBC Radio 4
Melvyn Bragg and guests discuss the great nineteenth century political philosopher John Stuart Mill. He believed that, 'The true philosophy is the marriage of poetry and logic'. He was one of the first thinkers to argue that a social theory must engage with ideas of culture and the internal life. He used Wordsworth to inform his social theory, he was a proto feminist and his treatise On Liberty is one of the sacred texts of liberalism.

J S Mill believed that action was the natural articulation of thought. He battled throughout his life for social reform and individual freedom and was hugely influential in the extension of the vote. Few modern discussions on race, birth control, the state and human rights have not been influenced by Mill's theories.

How did Mill's utilitarian background shape his political ideas? Why did he think Romantic literature was significant to the rational structure of society? On what grounds did he argue for women's equality? And how did his notions of the individual become central to modern social theory?

With A C Grayling, Professor of Philosophy at Birkbeck, University of London; Janet Radcliffe Richards, Reader in Bioethics at University College London; Alan Ryan, Professor of Politics at Oxford University.
http://extdev.bbc.co.uk/programmes/p003c1cx
これまでJSミルをちゃんと読んだことはありません。が、彼の著作なら中公『世界の名著』でベンタムと一緒になっている第38巻(中公バックス版は第49巻)の中では「自由論」より「代議政治論」や「功利主義論」の方にむしろ食指が動きます。
「自由論」は最近出た山岡洋一さんの新訳が読みやすいと評判になっているようです。
http://www.kotensinyaku.jp/books/book19.html

自由論 (光文社古典新訳文庫)

自由論 (光文社古典新訳文庫)

On Liberty And Utilitarianism (Everyman's Library Classics)

On Liberty And Utilitarianism (Everyman's Library Classics)

この山岡さんが「訳者あとがき」で明治以降の『自由論』翻訳史について触れながら、今回の作業について、このように語っておられます。

 古典を訳すときの楽しみのひとつは、さまざまな既訳を比較対照する機会が得られることだと思うが、ミルの『自由論』の場合、明治初期、翻訳の英雄の時代とも呼ぶべき時期を代表する名訳があるので、とくに楽しみが大きかった。中村訳と、戦前に訳されて戦後に改訳された柳田訳、戦争中に訳されたという塩尻・木村訳、戦後の古典翻訳ブームの時代に訳された早坂訳、水田訳を比較していくと、近代日本の翻訳の歴史がみえてくるように思える。

中村正直(敬宇)による最初の翻訳は1871年明治4年)に出ているので、原著の出版(1859年)から10年程しか経っておらず、まだミルは御存命(65歳)だった訳です。山岡さんいわく「中村正直は同時代の最先端の本を訳したのだ」。確かに当時でこのタイミングですから本当にすごいことだと思います。
その昔、水田洋さんの訳書を手に取ったことがあるのですが、そのあとがきに、ミルの文章は受験英語に出てくるような英文で非常に訳しにくい、というくだりがあったはずです。原文がそうなのですから翻訳をスラスラと読める訳がありませんが、それにしては山岡さんの今回の訳文は本当に読みやすく瑞々しい。この日本語を読んでいると、これが本当に、まだ幕末の時代に出版された本なのだろうか、と思います(もっとも英国で、なのですが)。翻訳は、横のものを縦にするだけでなく、訳文である日本語が日本語として読み易くなければいけませんね。光文社古典新訳文庫の出版の姿勢(「いま、息をしている言葉で、もういちど古典を」)を地でいっている訳文だと思います。
読み易い現代の日本語によって、150年前の世界の古典が見事に甦った、というところですが、これが明治の日本語、例えば、福澤諭吉の文章を読んだ場合には、明治の日本語のニュアンスを十分理解できない現代の私には、こんなに瑞々しくは頭の中に入ってこないでしょう。
最近、吉田健一さんの『ファニー・ヒル』を読んだ際にも感じたのですが、これがとても18世紀の中頃に書かれた本だとは思えませんでした。プロの翻訳家による名訳ならでは、というのか、げに恐るべし名訳、というところなのでしょう。
なお山岡さんは最近古典の翻訳が続いて評判になっている模様。

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)

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ケインズ 説得論集

ケインズ 説得論集

山岡さんの翻訳論。
翻訳とは何か―職業としての翻訳

翻訳とは何か―職業としての翻訳

翻訳通信
ケインズ説得論集』を訳して
『ミル自伝』を訳す
独断と偏見で選ぶ翻訳ベスト50候補
http://homepage3.nifty.com/hon-yaku/tsushin/