吉田健一 生誕 100年 & 丸谷さんの読書案内

吉田健一 ---生誕100年 最後の文士 (KAWADE道の手帖)

吉田健一 ---生誕100年 最後の文士 (KAWADE道の手帖)

既にこんな本が出ていますがウィキペディアによると本日はヨシケンさんの生誕100年を寿ぐ日。いやぁめでたいですね。
久し振りに集英社版『吉田健一著作集』の内容見本の表紙の似顔絵(清水昆画伯)を眺めて、またオヤジさんとの対談「大磯清談」を読んでみたくなってきました。
大磯随想

大磯随想

さて、この内容見本にある略年譜によると、生まれたのは「日附がはつきりしないことが多いので、表にしないで書き下せば、3月27日に東京で生まれたことは確かである」とあり、ちょっと調べてみる必要がありそうです。
吉田健一集成〈別巻〉

吉田健一集成〈別巻〉

それにしても今年は大きな節目の年なので文芸誌ではヨシケンさんを偲ぶ様々な文章が載ることでしょう。もう既に載っているのかな。過去の文章も探してみるつもりです。
例えばヨシケンさんの師匠河上徹太郎丸谷才一さんとの対談「吉田健一の生き方」。文芸誌「海」の1977年10月号、ということは、その年の8月3日に65歳で亡くなっているので追悼号ですね。
文学ときどき酒 - 丸谷才一対談集 (中公文庫)

文学ときどき酒 - 丸谷才一対談集 (中公文庫)

現在は丸谷さんのこの対談集に収録されて読むことができます。
あと「文學界」2007年9月号の特集「没後30年・吉田健一の世界」の中の丸谷さんの「近代といふ言葉をめぐつて」や加藤陽子教授の「吉田健一と近代日本」、武藤康史さんの年譜(吉田がケンブリッジを中退して帰国した際の事情の記事が興味深い)などでしょうか。
吉田茂『大磯清談』
http://blog.livedoor.jp/bsi2211/archives/51458307.html
牧野伸顕回顧録
http://blog.livedoor.jp/bsi2211/archives/51451937.html
文学のレッスン

文学のレッスン

丸谷さんといえば最近改めて読み終えた『文学のレッスン』の中でもヨシケンさんの名前が頻繁に出ていました。
文学概論 (講談社文芸文庫)

文学概論 (講談社文芸文庫)

冒頭の「はしがき」からこの「『文学概論』には舌を巻く思ひだつた。言葉と精神についての考察から文学の各ジャンルへと一気に攻めてゆくエネルギーに圧倒されたのである。あれは『ヨオロッパの世紀末』や『英国の文学』とくらべて話題にならない本だけれど、もつと注目されていい」と高く評価されています。


ついでに今回この『文学のレッスン』を読んで、丸谷さんから私への読書案内は次のとおり。
これを読む時期の自分の興味によって、気になる本は違ってくるでしょうね。
今回は、たまたまイギリス・ロンドン、イタリア・フィレンツェを訪問した後だったので以下のようになりました。
【短篇小説】

イギリス短篇24 (現代の世界文学)

イギリス短篇24 (現代の世界文学)

この中に収められているアイリス・マードック「何か特別なもの」(丸谷才一訳)

マードックは長篇小説しか書かない人みたいで、短篇小説はこれ一つしかないんじゃないかな。しかしすばらしい出来だから、読んでごらんなさい。
(丸谷さんが短篇小説を書こうと思われるときは、どういう動機が働くのでしょうか。)
いちばん身も蓋もないいい方をすれば、いい短篇小説を読んだときですね。たとえばこの前、マードックの「何か特別なもの」を読み返してみて、改めてその手法に感心して、おれも書かなきゃいけないな、と思った。

【長篇小説】

いいなづけ 上 (河出文庫)

いいなづけ 上 (河出文庫)

長篇小説は社会の全階層を全部ごちゃまぜにして書かないと、そういう目配りでやらないとうまくいかないという性格があります。その点でも、長篇小説が国家成立に役立つといえそうな気がしますね。
(19世紀イタリアのマンゾーニの『いいなづけ』は、イタリア統一でまさにそういう役割を果たした、といえそうですね。)
マンゾーニの『いいなづけ』というのはいい例ですね。僕はあれはなかなかいい長篇小説と思っているんですが、褒める人があまりいなくてつまらない。竹内好の国民文学論というのは、『いいなづけ』を長篇小説の理想とするような、そういう考え方じゃないのかなあ。

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

人生と運命 1

人生と運命 1

なお現時点で私が今年読みたい長篇は、いずれも3巻本の村上春樹1Q84』、ワシーリー・グロスマン『人生と運命』です。

長篇小説というのは、原理的にいっても水増ししようと思うといくらでもできる。スリー・デッカー・ノヴルといって、三巻本の長篇小説という言葉がイギリス文学にはあるんです。『吾輩は猫である』は最初三巻本で出た、上中下とあって。あれはイギリスのスリー・デッカー・ノヴルの影響を受けているんです。
読者に三回買わせなければならない。そのために上巻の終りと中巻の終りに大変なはったりをかける、さてどうなりますかというぐあいに。イギリスの長篇小説はあの出版形態のせいで非文学的になったという説があるのです。そういうのはおかしいと思ったのがスティーヴンソンなんです。彼はそこできりりと締ったものを書くわけですね。だから文学的に成功している。

【伝記・自伝】

チェッリーニ自伝―フィレンツェ彫金師一代記〈上〉 (岩波文庫)

チェッリーニ自伝―フィレンツェ彫金師一代記〈上〉 (岩波文庫)

イタリアのルネッサンス期のチェッリーニの自伝があって、これはおもしろかった。勇壮活発で、大らかで、ルネッサンス人というのはこういうものだったのかと思わせるような自伝です。あまり読まれていないようですが、これはお勧めしますね。日本でいうと勝小吉の自伝があるじゃない、あれの西洋版がチェッリーニの自伝じゃないかな。乱暴で、無茶苦茶で、さっそうとしている。

(写真)
そういえばフィレンツェ貴金属細工の父、チェッリーニの胸像がヴェッキオ橋の中央に立っていました。
チェッリーニの作品
首を下げた○○

私の昭和史

私の昭和史

中村稔さんの『私の昭和史』は2005年3月文藝春秋臨増号に載った井上ひさしさんとの対談「言葉は国の運命」の中でも丸谷さんは絶賛されていました。
父と子―二つの気質の考察 (自伝文庫)

父と子―二つの気質の考察 (自伝文庫)

これは個人的に読んでみたいタイトルです。
【歴史】
イタリア・ルネサンスの文化

イタリア・ルネサンスの文化

デュマの『鉄仮面』は鈴木力衛訳。ボアゴベの『鉄仮面』のほうは明治時代に黒岩涙香が翻案して大評判になりましたが、戦後、原書が見つかって長島良三の翻訳が出ました。おもしろいですよ。ボアゴベのほうがデュマよりいいね。
ヴォルテールの『ルイ十四世の世紀』は、時代を動かした歴史書なわけだけれども、このほかにも逸話的な話がいっぱいで、目次をみても、25章「ルイ十四世時代の特色と逸話」、26章「特色と逸話 続き」、27章「特色と逸話 続き」、そのつぎの28章になると、特色は省かれて「逸話 続き」になってしまう。ヴォルテールという歴史家が、逸話をいかに大事にしたかがわかります。
司馬遼太郎があれだけ成功したのも、東大文学部日本史学科的歴史学が敬遠して扱わなかった逸話をふんだんに取り入れたからでしょう。ただし歴史のなかに逸話を入れると本論へもどるのがなかなか難しいのね。司馬さんは「余談を終える」とか実に無造作にやってしまうけれども。

【批評】

レオナルド・ダ・ヴィンチの方法 (岩波文庫 赤 560-2)

レオナルド・ダ・ヴィンチの方法 (岩波文庫 赤 560-2)

その他エドマンド・ウィルソン、マリオ・プラーツ。上記の吉田健一『文学概論』も。

吉田がブラーツに誉められた話

【エッセイ】

方丈記 (岩波文庫)

方丈記 (岩波文庫)

方丈記』はすごいものなんですよ。昔、うちの息子が大学受験のとき、古文が苦手だから何かいっしょに読んでくれと僕にいったの。それで大野晋さんに相談して、『徒然草』でも読もうかと思っていますといったら、大野さんは、『徒然草』はつまらないからおよしなさい、何といってもいいのは『方丈記』だ、といってすすめてくれた。それで読んだ。おもしろかった。

ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

【戯曲】
マキァヴェッリ全集〈4〉マンドラーゴラほか

マキァヴェッリ全集〈4〉マンドラーゴラほか

この中に収められた『マンドラーゴラ』(○○訳)
【詩】
対訳 ジョン・ダン詩集―イギリス詩人選〈2〉 (岩波文庫)

対訳 ジョン・ダン詩集―イギリス詩人選〈2〉 (岩波文庫)

大岡信折々のうた』。岩波新書で索引を含めて全○巻。さすがの分量です。
『精選折々のうた』(上、中、下の3巻本)というバージョンもあります。

折々のうた』は、勅撰集の役割を果たしているような、大岡版の大アンソロジー。ちょっと自慢していうと、僕の発句も一句選ばれている。
(何が入ってますか?)
「ばさばさと股間につかふ扇かな」というのが入ってます。これが朝日新聞に載った朝に、野坂昭如から祝電が来た。

1979年1月25日から2007年3月31日まで、途中何回か中断しながらも通算6,762回続いた朝日新聞の連載「折々のうた」。その中から「21世紀に伝えたいという気持ちを込めて」2,100の「うた」を選び出した上中下3冊の『精選 折々のうた』にも丸谷さんの「うた」(神保町喫茶店所見)は目出度く選出されておりました。
(後記)
丸谷さんの書評集が文庫版で出ました。目次だけでも眺めてみたいものです。

快楽としての読書 日本篇 (ちくま文庫)

快楽としての読書 日本篇 (ちくま文庫)

快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫)

快楽としての読書 海外篇 (ちくま文庫)

丸谷さんが日本の書評文化レベルアップを目論んだ毎日新聞書評欄。その20年のエッセンスが3冊に。