日本政治思想史

今晩から、いよいよ 原 武史さんのラジオ放送大学「日本政治思想史」講義が始まりました。
いやぁー 原さん、なかなかイイ声ですねぇ。

第1学期:(水曜)19時00分〜19時45分

講義概要

主に幕末から戦後にかけての近現代の日本の政治思想史を講義します。西洋とも、中国や朝鮮など東洋とも異なる日本の政治思想とは何かに注意を払いつつ、従来のように有名思想家のテキストを読むだけでは見えてこない日本の政治思想の特徴について探ってゆきたいと思います。こうした学習を通して、現在の日本政治の背景にある歴史的、思想的前提を正しく理解することが、本講座の目的になります。受講者としては、天皇制という日本独自のシステムに関心があり、計量的な政治学だけでは飽き足らないと思っている学生を対象に考えています。

第 1回 総論1・日本政治思想史とは何か
日本政治思想史という学問が西洋政治思想史をモデルとして丸山眞男により事実上始められたことに触れるとともに、西洋とも中国や朝鮮のような他の東洋とも異なる日本の政治思想の特徴につき概観します。

【キーワード】
丸山眞男(「日本政治思想史」の創始者)、自然、作為(人為)、孟子、革命、天皇制、福澤諭吉、権力の偏重
「日本では体制を支えている思想が必ずしも言説化されている訳ではない」

【文献資料等】
渡辺京二、丸山「超国家主義の論理と心理」(1946)


第 2回 総論2・空間と政治
日本政治思想史では言説化した政治思想が空間をつくりだすのではなく、逆に空間が言説化されない政治思想をつくりだすという特徴があります。近代天皇制や徳川政治体制を例に、その特徴について考察します。

【キーワード】
国体(単なる national polity ではない)、言説化できない(教育勅語中の「国体」、治安維持法中の「国体」)、視覚化(行幸啓、皇居前広場)、君民一体、論語、刑政と礼楽、空間政治学

【文献資料等】
丸山『日本の思想』、丸山「まつりごとの構造」(○○)
牧野伸顕日記にみられる「国体」


第 3回 総論3・時間と政治
日本では西洋や中国とは異なり、現実の時間を超越して永遠不変の規範や原理を求める志向性が弱いので、現実の時間こそが支配の主体になりやすいことを、記紀神話から近代天皇制までの歴史のなかに探ります。

【キーワード】
古層(執拗低音)、なる(時間の経過とともに)、おのずから(自然)、勢(おのずからなりゆくいきおい)、社会進化論加藤弘之北一輝)、時間支配、終戦玉音放送

【文献資料等】
丸山「歴史意識の古層」(1972)、「軍国支配者の精神形態」(1949)、


第 4回 各論1・徳川政治体制のとらえ方 −朝鮮と比較して
徳川政治体制は、西洋や中国ではなく、隣国の朝鮮王朝と比較することで、その特徴が一層はっきりします。朱子学が体制イデオロギーとなった朝鮮とは異なる徳川政治体制の思想について考察します。

【キーワード】
朱子学、民本思想、直訴、正祖、参勤交代、フェティシズム朝鮮通信使、垂簾聴政、大奥

【文献資料等】
荻生徂徠『政談』(東洋文庫
本居宣長『秘本玉くしげ』(本居宣長全集)


第 5回 各論2・国学復古神道
江戸後期に台頭した国学の大成者、本居宣長と、宣長の思想を受け継いで復古神道を確立させた平田篤胤の思想を取り上げ、国学復古神道天皇の支配を正当化するとともにその支配を相対化する論理に迫ります。

【キーワード】
国学本居宣長、アマテラス、平田篤胤日本書紀、顕幽論、オオクニヌシ千家尊福、祭神論争


第 6回 各論3・明治維新天皇
後期水戸学で強調された「国体」と祭祀の関係や、明治維新とともにつくられた宮中祭祀靖国神社明治天皇の巡幸について触れ、「可視化された帝国」の基礎がつくられる過程を考察します。

【キーワード】
会沢正志斎、国体、キリスト教賢所、神器、靖国神社、六大巡幸、元田永孚、直訴


第 7回 各論4・街道から鉄道へ −交通から見た政治思想
江戸時代に確立された街道網と、明治以降に確立される鉄道網は、政治思想から見るとどう違うのか。交通手段が輿や駕籠から馬車を経て鉄道に変わることで、支配が具体的にどう変わったのかを考えてみたいと思います。

【キーワード】
街道、日本橋、輿、駕籠、馬車、鉄道、御召列車、ダイヤグラム、奉迎、東京駅


第 8回 各論5・近世、近代日本の公共圏と公共空間
江戸から明治にかけて、日本では公共圏がつくられました。それは政治思想史のなかでどう位置づけられるのでしょうか。また明治以降に新たにつくられた公共空間の政治思想史的意義についても考えます。

【キーワード】
公共圏、読書会、討論、横井小楠、議会、輿論、世論、自由民権運動、演説、車内


第 9回 各論6・東京と大阪
大正期、東京と大阪では全く異なるデモクラシー思想が開花しました。大阪では私鉄と新聞が発達し、両者があいまって民間主体、民衆主体の文化が確立されます。その具体的様相を探ってゆきます。

【キーワード】
吉野作造中央公論福澤諭吉小林一三、阪急、大阪朝日新聞、大阪毎日新聞、官と民、五島慶太


第11回 各論8・超国家主義と「国体」
大正天皇の病気をきっかけに「国体」が視覚化されるのに呼応して超国家主義が台頭する過程や、日中戦争の勃発とともに「時間支配」が導入され、「想像の共同体」が確立される過程につき考察します。

【キーワード】
国体、視覚化、ナショナリズム超国家主義、時間支配、想像の共同体、「満洲国」、大東亜共栄圏


第13回 各論10・戦後のアメリカ化
戦後、アメリカは日本国憲法に代表される上からの民主化を進める一方、独立回復後も安保体制のもとで米軍が駐留し続けました。
両義性をはらむ「アメリカ化」に対する反応を通して、民主主義の定着過程を概観します。

【キーワード】
マッカーサー、庶民大学三島教室、新茶道、朝鮮戦争、国立文教地区、原水禁運動、60年安保闘争


第14回 各論11・戦後のソ連
戦後日本はアメリカとは異なり、日本社会党日本共産党が有力野党となり、社会主義が影響力をもつようになります。住宅や鉄道などのインフラがソ連化をもたらしたという点から、戦後の革新勢力について分析します。

【キーワード】
日本社会党日本共産党六全協新左翼日本住宅公団、中央線、西武線堤康次郎、滝山団地


第15回 各論12・象徴天皇制と戦後政治
ミッチーブームとともに始まる大衆天皇制の政治的意味について考察するとともに、それに対抗した三島由紀夫の政治思想を分析します。また平成の天皇制についても考えます。

【キーワード】
ミッチーブーム、大衆天皇制、松下圭一三島由紀夫、文化防衛論、新宿騒乱事件、自衛隊、平成の天皇

http://www.ouj.ac.jp/hp/kamoku/H29/kyouyou/C/syakai/1639501.html

日本政治思想史―十七~十九世紀

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