水上滝太郎作品集

銀座復興 他三篇 (岩波文庫)

銀座復興 他三篇 (岩波文庫)

水上滝太郎作品集 「銀座復興」「果樹」「遺産」全25回
朗読 : 高橋 理恵子
テキスト:「銀座復興」岩波文庫 2012年版

自然災害の絶えないこの国の中で、予知は難しく、突然発生し大きな被害をもたらす地震。近代に入って、関東大震災、第2次大戦中の東南海地震、先の東日本大震災をはじめ甚大な被害をもたらし、その都度被災者は長きにわたり苦しめられ、その復興はなかなか容易ではない。
ここに、そんな地震災害に遭遇しながら再び立ち上がる人々を描いた小説がある。自身「関東大震災」に遭遇、一瞬にして灰土と化した東京・銀座を舞台に、傷心の中からその復興に邁進する人々を描いた水上滝太郎の小説『銀座復興』、ほかに『果樹』『遺産』をお聴きいただく。

「銀座復興」(「銀座復興」 岩波文庫・2012年発行、15回放送予定)
1923年(大正12年)に発生した大地震関東大震災)は関東一円に甚大な被害をもたらし、東京の中心地、銀座も一瞬にして灰土と化した。当時、銀座は維新以来、商業の中心地、繁華街として発展しつつあったが壊滅。しかし、電気などライフラインを絶たれる中、ランプの灯を頼りにいち早く飲み屋“はち巻き”を開店、人々に元気と勇気を取り戻させた店があった。この時だからこそと気持ちを奮い立たせた大将、銀座を愛しながらも傷心、茫然自失に陥った店主や業者、住民たち、集うことが自由な力となり人々は、その復興に立ち上がる。焼土の銀座に再開した一軒の飲み屋を舞台に、人間・復興を描いた小説。1931年(昭和6年、「都」新聞掲載)。

「果樹」
描かれる大事件は、子供ができたこと。毎日、庭の樹々を眺めることに生活の安らぎを感じる若い夫婦。平凡な日常のいかに大切かを感じさせる、ほのぼのとした小品。1939年(昭和14年、「中央公論」)。

「遺産」
大震災は、人間の本性をあらわにする。我欲も、傲慢さも、卑小さも、思いやりもすべて含めて人間だ、単純ではない。大震災を機に人の本質を見据えた小品。1929年(昭和4年、「三田文学」)。

水上滝太郎
本名、阿部章蔵。1887年(明治20年)生まれ、1940年(昭和15年)没。小説、評論、劇作家で、泉鏡花に傾倒、永井荷風慶應で教えを受ける。1911年から「三田文学」に短編を発表。卒業後、ハーバードに留学、ロンドン、パリに学ぶ。帰国後、創作と実業を両立させ、大阪毎日の役員を務めるが、講演中倒れ、亡くなった。1923年、滞在していた鎌倉で被災。
作品に「九月一日」「果樹」「遺産」「銀座復興」など。他に「大阪」「貝殻追放」「大阪の宿」など。
http://www4.nhk.or.jp/roudoku/315/