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建暦2年(1212年)の3月末にこの『方丈記』が京都郊外・日野の庵で書かれた時、蓮胤鴨長明は数え年で58歳だったようですが、東日本大震災後、ということでなくとも、これは一度眺めてみたいと思います。
『文学』第13巻・第2号 2012年3,4月号 目次 《特集》方丈記800年
《座談会》『方丈記』800年
稲田利徳・千本英史・小林一彦・浅見和彦(司会)『方丈記』への長い道のり 三木紀人
――災害体験を起点として――
養和の飢饉、元暦の地震と鴨長明 郄橋昌明『方丈記』の文体と思想 荒木 浩
――その結構をめぐって――
南方熊楠と『方丈記』 松居竜五
――ディキンズとの共訳をめぐって――
『方丈記』終章の方法 木下華子後鳥羽院の時代 磯 水絵
――鴨長明と大神景賢――
鴨長明の「都」と「都」の外への眼差し 田中宗博鴨長明伝余聞 新間水緒
――父長継の妻のことなど――
長明大人の日々 新木直人【文学のひろば】 鴨長明と東国 久保田淳
北斎『東遊』画賛考 鈴木 淳
『夜の寝覚』末尾欠巻部と伝後光厳天皇筆不明物語切の新出断簡 池田和臣
http://www.iwanami.co.jp/bungaku/index.html
――寝覚上は二度死に返る――
丸谷さんの「すごくおもしろかった」との言もありましたので、私も一度読ませていただきます。
- 作者: 鴨長明,市古貞次
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佐藤春夫の訳者の言葉(日本国民文学全集7)
情緒的な文学の多いわが古典のなかでは、談理を主としている「方丈記」など珍らしい文学である。如何に生くべきかの主題を力説して作者の個性あざやかに、国文と漢文との調和を目ざしたかに見える文体も、古典として比較的に年代が新しいというばかりではなく、わが古典の中では根本的に最も近代文学的なもののように思われる。こういう観点から「方丈記」に興味を持って、その精読を目的に現代文に書き直してみて驚いたのは、彼がその生涯と生きた時代とを可なり克明に書いたこの堂々たる文章が僅に二十五枚に過ぎぬことであった。よく整理された簡潔な文章と称すべきであろう。また一見ひねくれて世をすねたようなこの作者が案外素直にしかし強い精神力の人で、それ故この老人じみた文学が実は青年の書であった事も精読の後にはじめて気がついた。
「方丈記」には純粋な性格の美が感ぜられる(し、「徒然草」の短い章句のなかには到るところに心理的な奥行の深さが閃いている。兼好は幅の広いものわかりのいい心情のゆたかな人であったろう。心理主義文学として「徒然草」は世界の文学史でも先駆的なものかと思われる。)
『方丈記』は、中世の乱世を背景にして書かれた随筆文学ですが、現代の乱世を少年時代に生きたわたしには、とても親しみのもてる古典です。
わたしは小学校4年生のときに第二次世界大戦の終わりを中国東北の長春という町で迎えました。当時はそこに満州国という、日本がつくった植民地国家があって、長春はその首都でしたから、一つの国家が敗戦によって崩れ落ちていく姿を、まざまざと体験したのでした。
それから空襲で焼け野原になった日本へ引きあげてきました。古い町はなくなって新しい町ができていく、そのはじまりのころでした。国を治める人も、国民をみちびいていく精神的な指導者も、敗戦を境にしてみんな入れかわりました。なにもかもが変っていくそのさなかに帰ってきたのです。
ですから『方丈記』に書かれている「無常」といわれる、一切のものは変化する運命にあるというのがこの世の特質である、という仏教的な考え方を、しぜんに受け入れることができたのです。
いつ読んでも感動を覚える場面は、仁和寺の隆暁法印というお坊さんが、餓死した人々の冥福を祈って、ひとつひとつの遺体の額に梵字の「阿」を書いていくという場面です。わたしは、神や仏を信ずることができない人間ですが、この場面を読むと目頭が熱くなるのを覚えます。
それはわたしが、戦後の中国でたくさんの死と出会ったから、ということもあるでしょう。戦後の混乱のなかで死体を見ることは、少しもめずらしいことではありませんでした。だれにも振り向きもされない死があまりに多かったのです。
だから悲惨というよりない世界に、こういうお坊さんがいたということが、とてもうれしく、また感動的なのです。なんという愛でしょう。この時代の宗教者がほんとうに人間のことを考え、生命をかけてこの世界の残酷な条件とたたかっていた、このお坊さんもそういう方々の一人なのだ、と思うからです。
- 作者: 堀田善衛
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『方丈記』という生き方
『方丈記』の作者、鴨長明はちょうど時代の変換期である平安時代の末に京都に生まれました。その頃京都は大火、大地震、飢きんが続き、これに戦禍が加わりました。そんな中でも長明はたくましく生き抜きました。混迷と不安の時代、長明はどう生きていったのか。長明の生きざまは現代にも指針となります。
大災害に政治危機。現代は800年前の「方丈記」の時代とそっくりです。鴨長明は大火、飢饉、戦乱、大地震といった災厄に直面し、その模様を方丈記に書きとめました。長明は危険な都会地を離れ、山里に庵(いおり)を構え、新しい生き方を模索しました。それは「貧」に徹する生き方でした。鴨長明たち中世人の生き方から学びます。【第1回】源平の時代と「方丈記」
http://www.nhk.or.jp/r2bunka/ch07/index.html
【第2回】鴨長明の災害体験
【第3回】方丈の庵の構造
【第4回】鴨長明を歩く
【第5回】中世の「貧」の思想